理学療法で歩行を取り扱うことは多いと思います。
この記事では歩行の評価について網羅的に書いていこうと思います。
目次
まずは歩行の評価に移る前に歩行の基礎知識について押さえておきましょう!
歩行周期とストライド
歩行は周期的な運動です。踵をついてから同側の踵がつくまでを1歩行周期という単位で見ることが一般的です。
歩行を行った時の足跡をイメージしてください
この時に同側の足部から対側の足部までの距離をステップ長(歩幅)
同側の足部から同側の足部までの距離をストライド長(重複歩行距離)と言います
ステップ・ストライド長を踵から踵までの距離やつま先からつま先までの距離と定義することもあるので注意が必要です。
歩行相
臨床では歩行をさらに理解しやすくして歩行の分析を行うために歩行周期を細分化します。
歩行周期の細分化はランチョ・ロス・アミーゴ国立センターが定義した分類に基づいて行います。
歩行相 | 説明 |
IC | 観側の足部が床についた時 |
LR | 対側の足部が床から離れるまで |
Mst | 観側踵部が床から離れるまで |
Tst | 対側のICまで |
Psw | 観側の足部が床から離れるまで |
Isw | 両側の硬いが矢状面上で交差する |
Msw | 観察側の下腿が床に対して垂直 |
Tsw | 観察側のICまで |
この歩行周期の細分化は臨床でよく使うので覚えていた方が良いです。
この記事でも書いたように歩行能力という概念はかなり抽象度の高いです。そのため、1つのデータでは歩行能力を表しきれないです。そのため、歩行能力に関する評価はさまざまあります。
歩行能力に関する評価を大きく3つに分類すると
- 歩行パフォーマンス
- 歩行パターン
- 介助量による評価
となります。
歩行パフォーマンスは歩行速度や連続歩行距離などの能力的な側面であり、歩行パターンは対称性などの歩容に関する側面です。
介助量による評価は言葉の通り歩行を行うのにどの程度の介助量が必要なのかを評価します。
生活のことを考えると患者さんは歩行パフォーマンスをやや重視してしまいますが、療法士からすると能力改善などの今後のことを考えると歩行パターンの方をやや重視してしまうことが多いように思います。
歩行パフォーマンスと歩行パターンどちらも大事なのでバランスよく診ていくことが重要です。
歩行パフォーマンスの代表的な評価には
- 10m歩行時間
- TUG
- 6分間歩行距離
があります。
10m歩行時間
10m歩行距離は加速・減速のための距離3m×2=6mと計測のための距離10mの計16mを歩行して、間の10mを歩行するのにかかる時間を計測します。
TUG
TUGは椅子から立ち上がり、前方3mにあるコーンを回って歩行し、椅子に着座するまでの時間を測ります。
6分間歩行距離
6分間歩行は30mの距離を往復して6分間に何m歩行できるのかを計測します。
歩行パターンの代表的な評価には
- 対称性の評価
- 歩行の変動性 or 安定性の評価
- 歩容に関する順序尺度の評価
があります。
対称性の評価
歩行は通常は左右対称的な運動ですが、片側に動くにくさがあると歩行動作が非対称になる場合があります。
対称性には時間的な対称性と空間的な対称性があります。
対称性の定量化にはsymmetry indexやsymmetry ratioという指標を使います。」
時間的対称性は遊脚期(足が地面から浮いている)時間が左右でどの程度違うのかをみます。
遊脚期=単脚支持期なので、単脚支持期の左右差を見ることもあります。
空間的対称性は左右の歩幅がどの程度違うのかをみます。
歩行の変動性 or 安定性
歩行は周期的で連続的な運動です。歩行周期という単位で見ると、歩行周期ごとに歩幅や歩行速度が変化することがあります。
歩行周期ごとに得られた歩幅や歩行周期、関節角度などの平均値や標準偏差を用いて動作の安定性を定量化します。
ここで気を付けてほしいのは安全性と安定性は違うという点です。
順序尺度の歩容評価
順序尺度の歩行評価にはWGSとG.A.I.Tなどがあります。
順序尺度の歩行評価は各項目(チェックポイント)ごとに出来ているのか出来ていないのかを順序尺度的に数値化してその合計を求めることが多いです。
変数の分類異常歩行パターンの種類 | 特徴 |
Buckling knee pattern | LRに足関節の背屈を伴う膝関節の過剰屈曲 |
Stiff knee pattern | 歩行周期を通して膝関節の運動が乏しい |
Extention thrust pattern | IC直後から膝関節の急激な伸展 |
Recuvatum knee pattern | 単脚支持期に膝関節の急激な伸展が起こる |
Stiff knee pattern 1 | 前遊脚期に膝関節が屈曲しない |
Stiff knee pattern 2 | 前遊脚期には屈曲が起こる |
姿勢の把握
3次元動作解析装置は複数台のカメラを用いて身体につけたポインターの位置座標を得ることで身体の位置を捉える方法です。精度が高いので姿勢を捉えるためのゴールデンスタンダードとなっています。(妥当性の話は別)
機器が高価であり、機器自体の大きさも大きいため大きい病院や大学などにあることが多いです。
慣性センサを用いた姿勢の把握は身体の各体節に慣性センサを装着して、慣性センサから得られた加速度・角速度から各体節がどのような運動を行なっているのかを計算して姿勢を把握します。
カメラ等を用いないので障害物のあるところでも姿勢を捉えることができることが利点です。
近年はコンピューター技術の向上によって画像から姿勢を推定する技術が出てきています。カメラ一つで姿勢を把握できるため注目を集めていますが、まだ明らかになっていないことも多いです。
筋電図
筋電図は筋が収縮し筋力を発揮しているときの電位を計測するものです。電位の増減を観察することで歩行時筋活動の周期的なパターンを見ることができます。この頃では筋シナジーという考え方もあります。
ここで注意してほしいことは筋電は筋力と同等ではありません。相対的なものなので解釈には注意が必要です。
床反力計
床反力計は床面から身体に加わる反力(方向と大きさ)を計測するものです。床からの反力を計測することで、歩行時の推進力がどうなっているのか、重心の動きはどうなっているのかを推定することができます。
歩行の介助量による評価にはFIMとFACがあります。
FIM
FIM(Functional Independence Measure)は1983年にGrangerらによって開発された日常生活活動の評価法です、FIMの評価項目の中には移動の項目があり歩行の自立度によって1〜7の7段階で数値化します。
FAC
FAC(Functional Ambulation Categories)は以下の表のように介助量に基づいた歩行能力の臨床評価指標です。
分類 | 説明 |
0 | 歩行困難(2人以上の介助が必要)、平行棒内なら歩行可能 |
1 | 歩行に1人の介助が必要(連続的な介助) |
2 | 歩行に1人の介助が必要(断続的な介助) |
3 | 安全のために近位監視が必要 |
4 | 平地では自立して歩行可能 |
5 | 平地や不整地、階段、斜面でも自立して歩行可能 |
介助量や自立度で定量化することで歩行全体の実用度を判断しやすいです。
歩行を日常生活で使えているのかを評価するために万歩計などを使って1日活動量やLife Space Assessmentで生活範囲を順序尺度で分類することができます。
歩行は単に能力であり、リハビリテーションの観点ではその歩行が対象者の生活にどのように影響しているのか?を考えることが重要です。
違う言い方をすると、歩行という移動手段が日常生活という目的に向かっているのかを考える必要があります。
歩行(移動手段)→生活(目的)
理学療法評価(トップダウン)を臨床で行うときは対象となる動作を目視で観察して姿勢を推定します。その動作観察結果と理学療法分野の知識を用いて動作の分析を行い、仮説の立案を行います。その仮説の検証を行うために理学療法検査・測定を行います。
時々、歩行分析→理学療法的治療とする人がいますが。歩行分析はあくまで仮説を立案しただけなので理学療法検査・測定を行なって仮説の検証を行いましょう。